阪田史郎先生 元NEC研究所所長/元千葉大学 工学部 情報画像工学科
近年の半導体や液晶などを例に挙げるまでもなく、中国、台湾、韓国などからの日本の電子技術産業の敗北が報じられています。日本が高品質、高機能、高性能を狙った一つの方向としてはいいが、価格設定やビジネス規模の見積り、低価格化・量産化に関する隣国の追上げの速さ、知的財産権の保護等に対する認識の甘さなどがあったのでしょう。
私は、激変するIT業界に関連して、大学で学べる「情報」の学問分野も大幅な再編・建て直しが求められていると考えます。そこでビッグデータや人工知能や新しい有望IT技術、ユビキタスネットワーク(IoT/M2M)をキーワードにしながら、どこが問題なのか、新しい学問分野で強調したい点は何かについてお伝えたいと思います。
前回にも話したことですが、IT業界のシステムエンジニアを目指す人に、まず、学んでおいて欲しいのは、OS(オペレーションシステム)です。それくらいOSはあらゆるソフトウェアの基本中の基本になります。ネットワークやデータベースなどを駆使しながら、上位の応用ソフトのためのシステムの中核機能を実現するミドルウェアが、どのようにOSとインタフェースを取りながら動作するかを理解することは重要です。
今後のIT業界で有望と思われるユビキタスネットワーク(IoT/M2M)の学問としては、インターネットや無線ネットワークをはじめとする情報ネットワークの中のセンシング技術を強調したいと思います。「知覚情報処理」という学問分野の一領域として学べます。その中で重要なセンシング技術を挙げると、情報センシング、センサ融合・統合、センシングデバイス、接触センシング処理、さらにセンサネットワークの5つがあります。
またビッグデータ時代に対応し、ビッグデータを処理、解析、将来予測する統計数学や機械学習をはじめとする人工知能は間違いなく重視されると考えています。統計数学は、上で述べたように数学の中でも応用数学に相当します。人工知能を学ぶ「知能情報学」には、情報系の応用数学と言われる学問がありますし、数物系学科にも応用数学があります。
さらに、スマホやセンサネットワーク、ウェアラブルコンピュータの普及に伴うM2M/IoTの進展により、ますます重要となるのが、近年巧妙さが増しているサイバー攻撃からシステムを守る情報セキュリティです。マルウェアと呼ばれる不正で悪意のあるソフトやウイルスによってシステムに問題が発生するとユーザにとっても、ソフトウェアを開発する会社にとっても大きな損失になります。SEには、セキュリティの基礎から応用まで広い知識、見識も求められます。
そのほか、マルチメディア・データベースは、データベース基礎/応用、画像や音声の処理を含むマルチメディアに分けられます。情報ネットワークは、プロトコル階層や通信制御機能などのネットワーク基盤、インターネットや各種無線などの個別情報ネットワーク技術から成ると思われます。情報系以外の機械工学や電気・電子工学でも、必要となる情報分野に関連する学問を学びます。
つづく
第5回 ICT分野で世の中の役に立ちそうな技術を模索。時代の先取りが大事 ~阪田史郎先生インタビュー
前回を読む
第3回 システムエンジニア(SE)という仕事に必要な技術~OSを知っておくことが必要最低条件!
⇒ユビキタスネットワーク(IoT/M2M)でリードする研究者