この仕事をするならこんな学問が必要だ<建設業界編>

日本のインフラや快適な空間づくりを支える技術開発~地震対策技術や環境技術、施工ロボット

大成建設株式会社

技術センター 建築技術研究所 防災研究室

欄木龍大さん

※所属・肩書は取材時のものです。

第4回 建設用ロボットや多機能ビルの開発に挑む。機械系や環境系の知識も必要に

今後期待される技術開発分野と、それに必要な学問について話しましょう。

 

技術センターで開発を進める新しい分野に建設用ロボットがあります。大地震、大災害の発生後に、人が立ち入れない場所に災害復旧のために現地に作業ロボットを導入し、がれきの広がるエリアで、大きな石が転がっているのを機械自身が見つけ、自ら破壊し、片付けることができる、無人化施工ロボットの開発を目指しています。

 

一方で、省人化、省力化、品質確保などを実現するための施工支援ロボットの開発にも取り組んでいます。鉄骨溶接、コンクリートの床仕上げや吹付塗装材料撤去などを、遠隔操作や自ら制御して作業するロボットを用途に応じて開発を行っています。このような、カメラ、携帯端末、インターネットなどのICT(情報通信技術)を活用した建設用ロボットの開発は、最近の大きなテーマの1つです。技術センターでも「1年に1個開発しよう」という意気込みで、人とロボットの共働の実現に向け、様々な切り口で技術開発に取り組んでいます。

 

もう1つの新しい技術開発課題は、多機能を備えた建物を建設することではないでしょうか。例えば、ZEB(ゼロ・エネルギー・ビル)+免震・制震技術などです。そのためには従来の建築工学に加えて、環境に係わる技術と免震・制震技術に係わる技術を融合し、それぞれが最大限に機能を発揮できるように、専門分野で役割分担し、連携するということが重要になってきます。

 

揺れの大きさに応じて自動的に性能を変える新開発の免震装置(油圧ダンパー)
揺れの大きさに応じて自動的に性能を変える新開発の免震装置(油圧ダンパー)

例えば、地震の揺れの大きさに応じて自動的に性能を変えるダンパーの開発には、機械工学分野の機械力学制御や流体力学の知識が求められます。ダンパーそのものの製作は、共同開発している専門企業が担うので、高い専門性は求められませんが、機械系の基本的な知識は必要となります。

 

 

今、大学で学ぶ建築工学の分野には、耐震工学や耐震設計というジャンルがあります。しかしより高性能の大地震対策ビルなどを作る場合には、この分野だけでは足りないと思われます。基礎は重要ですが、実際の免震・制震技術の適用事例を用いて、より具体的な課題に取り組む必要があると強く感じます。今後、このような方法を積極的に取り入れ、より実践的ですぐに役に立つ免震・制震技術を、大学でもっと学べるようにしてほしいですね。

 

おわり

 

欄木さんミニインタビュー

◆大学での研究・学んだことは、今の業務にどうつながっていますか。

 

大学、大学院では建築構造(振動)を専攻し、建物を地震の揺れから守る「制振構造」に関する研究を行いました。建物に設置したエネルギー吸収装置(制振ダンパー)を、コンピュータ制御により最適にコントロールして、建物の揺れを抑える「セミアクティブ制振」の研究です。これらの技術を実際の建物に適用し、建物の安全性を向上させたいという気持ちから、ゼネコンの技術研究所を就職先として希望しました。

 

会社に入ってからも、「免震・制振構造の研究開発」に関する業務に従事し、開発した新しいダンパーを実際の建物に適用して検証実験を行うなど、大学時代に学んだ基礎知識を活用して、より実用的な業務に携わっています。

 

◆高校時代は、どのように学んでいましたか・何に熱中していましたか。

 

高校時代は,学校の授業を中心に学んでいました。特に、授業の復習に力を入れていました。吹奏楽部でトランペットの演奏に熱中していましたが、文化祭実行委員長として、文化祭の企画・運営にも携わりました。

 

◆高校時代の経験で今に生かされていることはありますか。

 

企画力や交渉力などの基本的な能力は、部活動や課外活動を通じて身についたように感じます。

 

◆高校生が、授業や課外活動等で、この業界に関連した技術、知識(学問)関する課題研究や学習をするとして、どんなテーマ・課題が考えられますか。

 

・地震被害と耐震技術の変遷について(地震被害をうけて、どのように耐震技術や法律が進歩したのか。関東大震災、十勝沖地震、宮城県沖地震、阪神大震災、東日本大震災etc)

・免震建物とはどういうものか。なぜ、地震の時に建物が揺れないのか。

・なぜ、マンションはコンクリート造で、事務所ビルは鉄骨造が多いのか。建材としてのコンクリートの特徴と鉄の特徴は何か。

 

興味がわいたら

『みんなが知りたい超高層ビルの秘密』

尾島俊雄、小林昌一、小林紳也(サイエンス・アイ新書)

高度な技術の集大成である「超高層ビル」に関して、超高層ビルの歴史から、施工方法、地震や火災に対する安全対策の方法、エレベータや室内空調など居住者が快適に建物を利用する仕組みまで、超高層ビルの秘密を図解と写真を使って一般の人向けにわかりやすく解説している。超高層ビルを通じて建設技術に興味を抱くことができる。


『理系のための研究者の歩き方』

長谷川健:編、鎌田俊英、坂部輝御、長尾祐樹、渋川雅美、麦人社編集部:著(麦人社)

大学の研究者になるにはどうすればいいのか。企業の研究開発者になるにはどうすればいいのか。何をやるべきか、やってはいけないことは何かなど、第一線の研究者が有益なアドバイスをしており、理系をめざす高校生に参考になると思う。


運営:リベルタス・コンサルティング

 (協力:河合塾)

 

 

運営

協力