大成建設株式会社
技術センター 建築技術研究所 防災研究室
欄木龍大さん
※所属・肩書は取材時のものです。
大規模なプロジェクトへの対応のほかに、常に取り組まなければならない大きな課題がいくつかあります。それは大地震や大災害への対策技術、環境技術、および老朽インフラ施設の維持・補修などへの対応です。
震度6でも皿1枚割れない免震効果
東日本大震災以降、巨大地震や長周期地震動に対する関心が高まり、その対策技術が注目されています。当社での地震対策技術への取り組みは1960年代から開始されており、特に地震による揺れを受け流して建物を地震から守る免震技術の研究は、1988年に建物と地面の間に、「滑り支承」と呼ばれる特別な装置を設置する新しい免震構法を開発したことにより飛躍的に進歩しました。
それまでゼネコン他社でも、建物の基礎部を積層ゴム支承で支え、揺れを建物に伝えにくくするという免震構法はありましたが、「滑る」というしくみの装置を適用することで、揺れを伝えにくくするだけでなく、地震エネルギーを大幅に逃がす構法を考案しました(写真1)。実際にこの免震構法を採用した建物が、震度6強の大地震に遭い、優れた免震効果を発揮しており、半導体工場では精密回路製造装置が地震の被害を受けず、病院でも厨房の皿1枚割れませんでした。
東日本大震災をきっかけに開発した最新の免震技術は、建物が大きく揺れると自動的に強いブレーキをかけるしくみを持つ新しいエネルギー吸収装置(油圧ダンパー)です。車で用いられているショックアブソーバーなど衝撃を吸収する技術の原理を参考に、当社と油圧ダンパーメーカーが共同で開発しました。この油圧ダンパーは、揺れの大きさに応じて自動的に性能を変えながら地震エネルギーを吸収して、地震による建物の揺れを軽減します。今回、開発した油圧ダンパーは、電気を使わなくても機能を発揮できるメンテナンスフリーの装置であることが、利点の1つとなっています(写真2)。
また、津波対策にも取り組んでいます。当社では、津波を再現する津波造波装置や津波解析技術を最大限に活用して津波の挙動を把握し、有効な津波対策を提案しています。さらに、津波避難ビルや津波対策ビルという構造物も開発しています。津波避難ビルは、公園など大勢が利用する場所に設置し一時的に避難するための建物で、迫りくる津波の波力の低減が図れるように、津波を緩和する円筒形のビルとして考案されています。津波対策ビルは、ビルの1階外壁部分が津波によって破損しても建物中央部の強固な柱が全体を支え、しかも1階が浸水・破損しても階上に避難して利用できるように設計されたビルです。
年間消費エネルギーをゼロにするエコロジービル
当社は環境技術にも注力しています。特に最近の注力課題として、他社に先駆けたZEB(ゼロ・エネルギー・ビル)の開発があります。ZEBとは、ビルそのものが、光や風などの自然エネルギーを有効活用するとともに、センサーを用いて人の在・不在を検知し、個人個人に最適な照明・空調を提供することで省エネルギー化を図り、さらに太陽光発電によるエネルギーを活用して、1つの建物で年間を通した消費エネルギーをゼロにするという、新しいタイプのエコロジービルです。技術センター内にZEB実証棟を建設し、新しい省エネや創エネ技術を検証しながら、実際の建物に提案できるよう開発を進めています。
老朽化したビルへの対応について、当社では、超高層ビルの解体工法について技術開発を行い、既に実プロジェクトに適用しています。超高層ビルを、建設とは逆の手順で巻き戻すように環境に配慮しながら解体する工法がテコレップ工法です。日本では、海外のように、ビル解体にダイナマイトを使って、発破により破壊することは許されませんので、建物の上部から徐々に解体を進め、いつの間にか解体が完了しているという画期的な工法です。
また、建物の解体工法のほか、コンクリートの維持・補修のための技術も開発しています。コンクリートのひび割れをカメラで撮影し、年数の経過による痛み具合などを判定し、補修の有無を判断する方法により、橋梁やトンネルなどの構造物の維持・補修を実施しています。さらに、橋梁や地下鉄、地下街などの既存の柱を対象に、地震に対する補強工法として、補強材である炭素繊維シートを挟み込んだ薄型コンクリートパネルを、柱の表面に張り付けて一体化することで容易に補強できる技術も開発しています。