味の素株式会社
食品研究所 商品開発センター 坂下俊行さん
※所属・肩書は取材時のものです。
味の素といえば、調味料・加工食品の超有名企業。農学系、生物系の学生に人気の高い会社です。でもそれだけじゃない。実は、工学的なものの考え方が必要だと語る坂下さん。食品研究所の坂下俊行さんは、商品開発センターで、商品開発研究をしています。最新のヒット商品、吉高由里子さん出演のCMでおなじみ、キューブ1個に一人前の鍋スープのおいしさが詰まった「鍋キューブ」の開発も担当されてきました。
おすすめ本
『もの食う人びと』辺見庸(角川文庫)
新しい商品を作る場合には、本社のマーケティング部門で、消費者がどんなものを欲しているか、年齢構成や生活構造、暮らしの行動を調べ、商品コンセプトを立てます。そこが決まれば、食品研究所で実際に試作品を作り、完成させるという流れです。
約10年前に新築された5階建の食品研究所は、新商品の企画、試作、評価、分析までの重要な部分を担います。マジックミラーの向こうから見られる、他メーカーにない対面式のキッチンを持ち、ここで3ヶ月から2年をかけて、新商品は完成されます。
新商品の開発は大きく「ラボでの試作」、「工場生産のためのスケールアップ」の2つに分けられます。
「ラボでの試作品」はマーケティングの担当者と商品コンセプトを協議しながら作ります。「鍋キューブ」という商品を例にとれば、あのキューブの形に固めるにはどんな生産ラインが必要かまで考えます。包装の材質はどんなものがよいかを考えるのも重要です。それらをトータルに考えるということですね。
必要とされる学問は非常にバラエティに富みます。当社の人材で多いのは農学系の食品科学を学んだ人たちです。食品の栄養を考える生活科学の家政学や食生活学の人材も集まります。成分を分析する部門の人材として、バイオ・生化学の人材も必要になります。
「工場生産のためのスケールアップ」では、1億個作っても、全てが同じ品質で事故なく作るということが非常に重要になります。そこに必要な学問の一例をお教えしましょう。
加工食品の開発においては粉末状の原料や製品を扱うことが頻繁にあります。粉は独特の物理的な特色を持ち、それを研究する学問として粉体物性学があります。また、大量生産の生産プロセスでは、化学工学やプロセス工学が担うことになります。粉体物性学と化学工学を合わせた工学の1分野=粉体工学の人材が実は非常に大切なのだ、ということを理解していただければと思います。
『もの食う人びと』
辺見庸(角川文庫)
著者がアジア、東欧、アフリカ、ロシアなど各国を巡り、そこに住む人々に取材すると同時に同じものを食べ、その背景に迫るノンフィクション。チェルノブイリ原発の近くで放射能に汚染された物を食べ続ける人々、バングラデシュの残飯ビジネス、内戦中のソマリアにおける各国軍の食事など、極限環境下の食生活が描かれる。「食べるものの質が生活の質なのだ」ということを常に思い出させてくれる。
『銀の匙 Silver Spoon』
荒川弘(小学館少年サンデーコミックス)
農業高校を舞台にした漫画。人は何かを殺さなければ食べ物を得ることができない、という厳粛な真実と、食物への感謝の気持ちをまっすぐに描いている。