この仕事をするならこんな学問が必要だ<精密化学製品・機器>

最先端の医療画像を提供するX線撮影システムや医療IoTを実現 〜写真フィルムやデジタルカメラで培った材料工学や画像工学などを基礎に

富士フイルム株式会社

R&D統括本部 メディカルシステム開発センター

鍋田敏之さん

※2017年取材。所属・肩書は取材時のものです。

第5回 研究・開発職には実験を計画し遂行する力が必要。基礎と、未来の基盤分野を見る目が大切

X線のデジタル撮影装置は、画像処理担当、材料担当、ボディなどのメカトロニクス担当などに分かれて開発しており、様々な学問や知識が必要です。しかしプロジェクトチームの全員が全ての知識を持っているわけではありません。そうはいっても他のグループの技術についても、理解できる知識は必要で、互いにポイントを教え合ったり、専門の書籍や学術雑誌などを読んだりして勉強しています。

 

なお、富士フイルムでは、基礎になる技術については、製品開発プロジェクトとは別に基礎研究の専門部署があり、先端技術を研究しています。X線のデジタル撮影装置の場合は画像処理が基礎技術にあたりますが、各プロジェクトチームは、必要に応じて基礎研究の部署と連携して、製品を開発しています。

 

時代によって変化しない基礎学問を見極める

 

研究や技術開発の仕事に共通して必要なのは、明らかにしたいことや製品を開発するにあたって何が課題かをリストアップする力、複数の課題のうちどこから攻めていくかを考える戦略、課題を解決するためにどのような実験をすればよいかという構想力です。これは大学でどの分野を専攻したとしても、身につけることができますので、意識して、力を伸ばしていただきたいと思います。

 


もう一つ大切なのは、物理、数学、化学など、時代によって変化しない基礎となる学問をしっかり学ぶことです。デジタルが流行れば皆がデジタルを研究するなど、研究も流行に左右されがちです。しかし世の中は10年単位で変化し、同じことは続きません。そこで、基礎をしっかり身につけた上で、次の基礎となる学問は何かを考え、変化を先取りして学ぶことが大切です。現在であれば、次の基礎となり得るのは、人工知能、データ分析、情報のセキュリティに関する分野でしょう。さらに、自分の分野に閉じこもるのではなく、常に他分野に好奇心を持ってください。学問は変化しますが、境界領域に重要な課題が見えることがあります。

 

また、私が核心を突いていると思うことに「最高を目指す競争は、一見正しいように思えるが、実は自己破壊的な競争である」という、アメリカの経営学者、マイケル・ポーターの言葉があります。企業としてはその分野の最高を目指すことも必要なのですが、皆さんにはそれだけではなく、ほかの分野の人とコラボレーションをしながら、新しい価値を提案して実現できるような技術者になっていただきたいと思います。

 

おわり

 

大学や高校で何を学んだか ミニインタビュー

◆大学では、どのような研究をされていましたか。大学で学んだことは業務に活きていますか。

 

大学ではケミカルを軸にバイオからレーザーまで幅広い領域を学びました。専門分野を深堀していくことが大学・大学院の中ではスタンダードだった時代では珍しい経歴だと思います。あらゆる分野に対する好奇心、新たな知識を愚直に学ぶ姿勢、多岐にわたる分野の方と垣根なく話し合えるコミュニケーション力、これは大学時代に基礎を積むことができました。

 

会社に入り技術が日進月歩で変化する時代に、社内の様々な事業を経験しましたが、その都度新しい技術、製品・サービスを開発してきました。それも、この大学時代の 貴重な経験があってこそと思います。

 

◆高校時代では、どのように学んでいましたか。

 

高校時代は、将来目標が見当たらず腹に落ちない中、受験を経験しました。数学や物理は得意で理系を選択し、読書は嫌いでしたが、大学では物理でなく化学を専攻することとなり、今では一日一冊読むくらい読書好きになりました。学んだ分野が今に活きる綺麗なストーリーではありませんが、今は人命に貢献できるやりがいのある開発の責任者をしています。高校時代から常に将来目標を模索し、その時点で正しいと思ったことを愚直に取り組み続けることが、今の自分につながっていると思います。

 

興味がわいたら

クリエイティブ・マインドセット 想像力・好奇心・勇気が目覚める驚異の思考法

デイビッド・ケリー、トム・ケリー 千葉敏生:訳(日経BP社)

発見・発明は、しっかりと準備し心構えがあるものだけが遭遇するセレンディピティーであると解いた良本。「天才的ひらめきが訪れるのは、単に挑戦する回数が多いだけ。もっと成功したいなら、もっと失敗する心の準備が必要だ」といった失敗のパラドックスの思考は、開発者に勇気を与える。

また、「何かをやってみる」という考え方を一貫して説いており、最終的に創造の飛躍を遂げるためには、とにかく始める必要があり、決して傍観者にならないことだ、という説は、研究開発やサイエンスに携わる者の原点といえる考え方である。


エッセンシャル思考 最少の時間で成果を最大にする

グレッグ・マキューン 高橋璃子:訳(かんき出版)

情報の本質を掴み取る、ノイズの中からシグナルを探す、情報の本質を掴み取り、そこに集中する。こうした手法を解説。コミュニケーション能力、効率よくアウトプットを出すコツがつかめる良本。


イノベーションのジレンマ 技術革新が巨大企業を滅ぼすとき

クレイトン・クリステンセン 玉田俊平太:監修、伊豆原弓:訳(翔泳社)

企業は競争相手より優れた製品を供給し続けるべく、性能改良にリソース割くあまりオーバースペックの製品開発をせざるを得ない状況に陥る。他方、最初は一見性能で負けているイノベーションや破壊的製品を軽視してしまい、結果既存企業が潰れていく。そうした失敗をロジカルに説明。性能改良といったリニア思考ではなく、イノベーション・エクスポネンシャル思考の重要性が理解できる良書。


考える技術・書く技術―問題解決力を伸ばすピラミッド原則

バーバラ・ミント 山崎康司:訳(ダイヤモンド社)

論理的な説明、体系的な整理の重要性とその方法を記載した良本。ピラミッドの構造のように問題解決を上位から理解し、ポイントをしっかり腹におとしてから課題解決に取り組むといった、効率的な問題解決手段とわかりやすいプレゼンスキルを獲得できる。


運営:リベルタス・コンサルティング

 (協力:河合塾)

 

 

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