この仕事をするならこんな学問が必要だ<精密化学製品・機器>

最先端の医療画像を提供するX線撮影システムや医療IoTを実現 〜写真フィルムやデジタルカメラで培った材料工学や画像工学などを基礎に

富士フイルム株式会社

R&D統括本部 メディカルシステム開発センター

鍋田敏之さん

※2017年取材。所属・肩書は取材時のものです。

第3回 様々なノイズの除去と格闘しながら、医療現場での使い勝手の良さを追究

前回紹介した「DR(Digital Radiography)」というX線撮影のデジタル画像化システムは、X線撮影をするときに体に密着させる側の装置の「カセッテDR」という製品に搭載されています。そして「カセッテDR」は、X線を発する装置と併せて「CALNEO AQRO」という製品として発売されています。

 

かつては、X線撮影をするときには、X線を発するデバイスと身体を透過したX線を検出する装置をコードでつなぐ必要がありました。しかし、現在、X線検査は、レントゲン室だけでなく、病室など院内の様々な場所で行うようになっています。そのため、X線の照射装置と受光部とのデータ通信を無線で行えるように開発しました。

 

カセッテDR
カセッテDR

カセッテDRを患者さんの身体の下に挿入し、上からX線を照射して撮影する
カセッテDRを患者さんの身体の下に挿入し、上からX線を照射して撮影する

 

正確にX線による信号だけを検出する技術

 

カセッテDRに内蔵されている前述のTFTパネルには、照射開始後の微量のX線で反応するスイッチ素子が埋め込こまれており、そのスイッチがONになると、全ての受光素子が反応して画像を蓄積してくれるというシステムです。言葉で言うと簡単ですが、微量のX線とノイズを見分けて、正確にX線に対してのみONにするという信号処理技術の開発がとても大変でした。

 

例えば撮影するときに少しでも揺れると、エレキノイズや衝撃ノイズが入りますし、横でMRIやCTの撮影をしていると、磁場のノイズが入ります。こうした中、X線による信号だけを検出する技術を開発したのです。このとき必要なのが、どの信号がX線の信号かを見極めるためのソフトウェア技術です。これには、まずアナログで入ってきた情報をデジタルに変換する必要があり、デジタル回路だけでなくアナログ回路の知識も必要です。

 

外からの衝撃に強く、電磁波の影響を受けない素材や形状に

 

また、電子レンジの筐体は、内部の電磁波が外に出ない素材で作られていますが、カセッテDRでは逆に、外からの衝撃や電磁波の影響を受けないようにするために、素材や形状の検討を含めて、ボディの設計をしました。また、形状も角張っておらず、手に取りやすく、ベッドに寝ている患者さんの身体の下にも入れやすくしました。救急の現場で使う際には血液や吐瀉物がかかることもありますので、そのまま水洗いしても大丈夫なくらいの防水設計を施し、体重が重い方の下に入れても壊れないように、350kgまでの過重に耐えられる設計を施しました。その反面持ち運びしやすいように、カセッテDR自体の重さはとても軽量です。

 

さらにもう1つの課題が、厚さ15mmのボディに、TFTの素子、電子回路、無線通信のアンテナ、画像を保存するメモリなど様々なデバイスを入れ込むことでした。パソコンやスマートフォンも同じですが、狭いスペースに様々なデバイスを入れると熱くなりますので、放熱の技術も必要です。

 

このシステム開発には、前述のフラットパネルディテクターの技術に加えて通信、電磁波、放熱など様々な分野が関わっており、カセッテDRのボディそのものにも、機械材料、材料力学などの技術が詰まっています。

 

運営:リベルタス・コンサルティング

 (協力:河合塾)

 

 

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