富士フイルム株式会社
R&D統括本部 メディカルシステム開発センター
鍋田敏之さん
※2017年取材。所属・肩書は取材時のものです。
社会を見渡すと、かつての主力事業からは想像できない、幅広い事業を展開している企業が多数あります。その一つが、富士フイルム株式会社。写真フィルムが主力製品であった時代に培った写真フィルムに関連する多様なコア技術をもとに、様々な事業を展開しています。今回は、そんな事業の一つ、医療分野で提供しているデジタルX線撮影(レントゲン撮影)装置の開発に長年携わってきた鍋田敏之さんに、先端技術とその仕組み、関連する学問などについて、話を伺いました。
おススメ本は『クリエイティブ・マインドセット 想像力・好奇心・勇気が目覚める驚異の思考法』
当社は、1934年、写真フィルムの国産化を目的として創業されました。その後、医療用レントゲンフィルム、写真のカラーフィルム、カメラも発売してきました。フィルムは、一言で言うと有機材料と無機材料のかたまりで、機能性ポリマー上に何層もの異なる材料が精密に塗布されて出来上がります。当社は創業時から、写真フィルムの研究、開発および生産工程を通じて、化学技術、光学、メカトロニクス(メカニクスとエレクトロニクスの合成語で機械工学と電気・電子工学が融合した分野)、ソフトウェア開発、そして塗布技術などの各種生産技術をコア技術として培ってきました。
写真用カラーフィルム。かつてはこのフィルムをカメラに装填して撮影することが主流だった。フィルムがカメラで捉えた光を感光して、画像が記録された。
また当社は、現像したネガフィルムやデジタルカメラで撮影した画像を、センサーで読み取りプリントする装置も製造し、写真店などへ販売しています。そのような現像装置の開発・製造には主にメカトロニクス、プリントは機能性分子設計、酸化還元の制御、精密塗布といった技術が関係します。
当社のコア技術のうちの一つに画像処理技術があり、これは、アナログ、デジタルともに共通しています。例えば、画像の表現には、階調といって色の濃淡や明るさの度合いがあり、当社はこれを調整してユーザーが求めているような色を再現することができます。こうした画像に関する様々な技術を、当社は持っているのです。
現在、当社では、このように会社を支える基盤技術として、精密成型、システム設計、ナノ分散技術、製膜技術など12のコア技術を定めています。そしてこのコア技術をもとに生まれた様々な技術を組み合わせて、医療機器、化粧品、医薬品などのヘルスケア製品、ディスプレイ用の光学フィルムなどの高機能材料、デジタルカメラなどのデジタルイメージングシステム、デジタル印刷用機材などのグラフィックシステムなど、多様な事業を展開しています。
クリエイティブ・マインドセット 想像力・好奇心・勇気が目覚める驚異の思考法
デイビッド・ケリー、トム・ケリー 千葉敏生:訳(日経BP社)
発見・発明は、しっかりと準備し心構えがあるものだけが遭遇するセレンディピティーであると解いた良本。「天才的ひらめきが訪れるのは、単に挑戦する回数が多いだけ。もっと成功したいなら、もっと失敗する心の準備が必要だ」といった失敗のパラドックスの思考は、開発者に勇気を与える。
また、「何かをやってみる」という考え方を一貫して説いており、最終的に創造の飛躍を遂げるためには、とにかく始める必要があり、決して傍観者にならないことだ、という説は、研究開発やサイエンスに携わる者の原点といえる考え方である。
エッセンシャル思考 最少の時間で成果を最大にする
グレッグ・マキューン 高橋璃子:訳(かんき出版)
情報の本質を掴み取る、ノイズの中からシグナルを探す、情報の本質を掴み取り、そこに集中する。こうした手法を解説。コミュニケーション能力、効率よくアウトプットを出すコツがつかめる良本。
イノベーションのジレンマ 技術革新が巨大企業を滅ぼすとき
クレイトン・クリステンセン 玉田俊平太:監修、伊豆原弓:訳(翔泳社)
企業は競争相手より優れた製品を供給し続けるべく、性能改良にリソース割くあまりオーバースペックの製品開発をせざるを得ない状況に陥る。他方、最初は一見性能で負けているイノベーションや破壊的製品を軽視してしまい、結果既存企業が潰れていく。そうした失敗をロジカルに説明。性能改良といったリニア思考ではなく、イノベーション・エクスポネンシャル思考の重要性が理解できる良書。
考える技術・書く技術―問題解決力を伸ばすピラミッド原則
バーバラ・ミント 山崎康司:訳(ダイヤモンド社)
論理的な説明、体系的な整理の重要性とその方法を記載した良本。ピラミッドの構造のように問題解決を上位から理解し、ポイントをしっかり腹におとしてから課題解決に取り組むといった、効率的な問題解決手段とわかりやすいプレゼンスキルを獲得できる。