大日本印刷株式会社
※2017年掲載
ここからは、DNPの、ICカードやモバイル決済以外の事業と技術、求められる人材について紹介しましょう。
DNPの様々な事業はどれも印刷技術を源とし、印刷の工程ごとに蓄積した知識やノウハウが多方面に発展して誕生したものです。
出版印刷の工程は、文字や画像原稿の情報加工から始まります。この情報加工技術から発達したのが、画像処理技術、画像認識技術、情報セキュリティ技術です。例えば、画像認識技術は、培養中の細胞の形や動きを定量化し、経時変化の様子を自動で解析する技術につながって、再生医療の分野に応用されています。情報セキュリティ技術は、ICカード事業につながっています。
続いて、4色分解された印刷データをフィルムに出力する「製版」と、そのフィルムをもとに金属板上に情報を転写し、印刷の版を作る「刷版」の工程があります。この技術が、モノの表面に微細なパターンを形成する微細加工技術に発展しました。
この技術は、高品質の印刷はもちろん、半導体製品の回路を形成するための原版の製造や、液晶ディスプレイに用いられるカラーフィルターの開発、パスポートやICカードなど偽造防止が必要な製品につけられるホログラムの製造技術などに活かされています。
次に、版にインクをつけて印刷する工程がありますが、ここから、材料を薄く均一に塗布するコーティング技術が発展しました。学問でいうと、応用物理、化学、材料工学が背景となった分野です。DNPには、薄膜コーティング技術や、蒸着技術(※1)、賦型技術(※2)、EB技術(※3)があり、フィルムなどの素材上に様々な材料を塗布したり微細形状を形成したりして、物質に様々な機能を付加することができます。また、製品に最適なコーティングを行うためのコンピュータシミュレーション技術もこの分野から発展しました。
※1 蒸着技術:真空中で気化させた物質を材料にコーティングする技術。
※2 賦型技術:加熱または溶液化して流動性をもたせた高分子材料に、微細形状を持つ金型を型押しして表面に微細形状を成型する技術。
※3 EB技術:材料に電子線を照射することで、樹脂や塗膜を瞬時に高機能化させる技術。
コーティング技術が発展し、食品包装フィルムや住宅素材など様々な製品に
例えば高速薄膜コーティング技術からインクリボンの熱転写記録材が開発され、これがプリントシステム全体の開発につながっています。現在、撮った写真を自分でプリントできる装置が家電量販店、スーパーマーケット、写真専門店などに置かれていますが、このうち「Print Rush」はDNPの製品です。
また、精密薄膜クリーンコーティング技術によってディスプレイに貼られる反射防止フィルムが、蒸着技術によって酸化や吸湿、乾燥などを防ぐ、食品や衣料品の包装などに使われるフィルムが開発されました。EB技術は、住宅の床材、壁紙、ドアなどの様々な素材加工に用いられています。EB技術によって、鋼板のドアやプラスチックの車の内装に木目を印刷するなどデザイン面での加工のほか、素材が劣化しづらく、メンテナンスが容易になるような加工もできます。
印刷の最後には、製本・加工の工程があります。ここで培われた、モノを使いやすいように整える技術からは、様々なパッケージや、飲料や食品を無菌充塡するシステムの開発、検査・計測技術などが発展しました。
ほかにも、効率良く生産するための生産プロセスの開発や、製品を作る機械や設備に関する仕事、品質管理などが必要で、それぞれ生産工学や、機械工学、品質工学など、関連する学問があります。DNPの現在の技術系社員の専門分野の割合は、化学・材料、化学工学、物理、生物系が38%、情報・数学系が36%、機械系が15%、電気、電子系が10%、その他の理系が1%であり、幅広い人材が各所で活躍しています。
おわり