この仕事をするならこんな学問が必要だ<印刷業界編>

厚さわずか0.76ミリのカード1枚に先端テクノロジーが詰まっている ~カード社会を支える印刷技術

大日本印刷株式会社

情報イノベーション事業部 C&Iセンターマーケティング・決済プラットフォーム本部 

土屋輝直さん

※2017年掲載。所属・肩書は取材時のものです。

第3回 加工プロセス工学や材料工学が、通信機能が劣化しないカードを実現

次に、モノとしてのカードはどのようにして作るのでしょうか。ここでは、加工プロセス工学や、カードの材料であるプラスチック、すなわち高分子材料に関する材料工学、印刷に関連する学問、信頼性工学、評価技術に関する学問が背景となっています。

 

加工プロセスは、DNPの場合は、まず磁気カードは、4層の薄いシートを重ねて、あらかじめ磁気テープを熱で横に長く転写します。カードの骨組みになるコアという部分は、厚さ約300ミクロンのプラスチックの白色のシートを2枚と厚さ100ミクロンのプラスチックの透明のシート2枚を重ねたもので、一番上の層にカード表面の図柄を印刷します。

 

これらのシートは、熱を加えて1時間くらいプレスをすると、表面が溶けてくっつきます。その後、出来上がった大きな板から、金型でカードを1枚ずつ抜いていきます。

 

この磁気カードに接触型ICチップをつける場合は、表面を刃物で削って溝を作り、そこに接着シートのようなものを使って、金の端子のついたICチップを接着します。

 

非接触型ICカードの場合は、あらかじめ、ICチップとアンテナがついたシートのようなものをカードの間にはさみこみます。カードの層も大幅に増え、これも、熱を加えて圧力をかけると1枚の板になり、それを型で抜きます。

 

ICチップや通信の機能はどの国のカードも似たレベルですが、チップやアンテナをカードに実装する技術力は国によって大きな差があり、日本は世界一です。アンテナの場合、材料や、接続の材料、接続の条件次第で、カードを2000回曲げても通信機能が劣化しないなど、カードの耐久性は大きく異なります。

 

カードの材料となるプラスチックのシートは、外部の業者に発注しますが、日本では、環境に優しい、PET-Gという塩ビの成分が含まれない材料を使っています。また、カードには、カード番号などがエンボス加工で打たれています。つまり、カードとして必要な硬さとともに、文字を打った瞬間に割れない柔軟性も必要なのです。そこで両方の条件を満たす材料を設計し、製造を外注しています。

 

偽造を防ぐためのデザインも

 

印刷は通常、CMYK(シアン、マゼンタ、イエロー、黒)の4色をかけあわせて様々な色を表現します。しかしカード印刷は特色や機能性インクの印刷などセキュリティ向上のための様々な仕掛けが施されており、多いと20色以上印刷されることもあります。

 

また、偽造を防ぎデザイン性を高めるために、製版の分解能をものすごく上げて精密な絵柄を表現することもあります。例えばゴルフ愛好者向けのクレジットカードのゴルフボールの図柄にディンプル(小さなくぼみ)をつけて立体感を出すデザイン性の高いカードなどもあります。このようにカードには、印刷の中でも特殊で多様なテクノロジーが詰まっています。

 

モノ作りに共通する信頼性工学も必要です。信頼性工学は、カードを100万枚作っても不良品ゼロにするにはどのように管理すればいいかを考える分野です。

 

また、カードの耐久性などを評価する評価技術も必要です。例えばISOでは、ベンディングといって、カードを機械にはさんで、表側に曲げる試験を1000回、裏側に曲げる試験を1000回行うことを定めています。しかしDNPでは独自に、故障率が何百万分の一になるような設計基準を設け、かつ、それを評価するための試験装置を独自に製作し、これをクリアする設計を施した上で、量産に移しています。

 

運営:リベルタス・コンサルティング

 (協力:河合塾)

 

 

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