今井元先生 元富士通/元日本女子大学 理学部 数物科学科
私は、世界に誇る日本の半導体技術をもっと活かす分野はあるはずと思っています。例えば、半導体の基礎となるシリコン材料に関してローコストのアジアにかなわないです。しかし、そんな中注目される新たな半導体材料が、ナノテクノロジー材料のカーボンナノチューブ、フラーレン、グラフェンです。これらは半導体の動作速度を飛躍的に向上させます。例えば、グラフェンは炭素で作られる原子1層の薄膜で、シリコンに比べて1万倍の電子移動度を示すことが知られています。
幸い、日本はナノテクノロジー中でも、材料関連分野は進んでおり、世界に先行しています。この分野で日本が量産に成功すれば、今後の半導体産業にとって大きな意味を持っていますし、起死回生の起爆剤になることでしょう。
私は前回、日本は、ナノ微細加工技術は弱いと指摘しましたが、ところどころ見どころのある技術もあるんです。例えば、半導体素子、ウエハの研磨技術は世界に誇ります。そのすごい技術力は、国立天文台すばる望遠鏡に利用されたことでも有名です。
狭心症で狭くなった血管を広げる血栓防止のナノ加工技術をご存知でしょうか。ステントと言って、これは日本の隠れたヒット商品と言っていいんです。血栓になった患者は今やたいていステントを入れていますからね。
センサーも、半導体の今後を占う重要なキーワードになると思います。デジタル家電の中で最も急激にデジタル化されたものに、デジタルカメラがありますね。デジタルカメラの高画質化、高機能化は、半導体の技術革新で実現できました。デジタルカメラに当初内蔵されているCCDイメージセンサーの半導体素子がそれを可能にしています。
デジタルカメラの画像精査をするナノ露光技術も、今日本が非常に進んでいます。キャノンが世界に先駆けたセンサーにCMOSイメージセンサーがあります。ニコンとキャノンという日本の二大カメラメーカーの中で、今、キャノンがすごいでしょう。オリンピックやアジア大会で報道カメラマンが持っているカメラは、ニコンからキャノンにシフトするようになりました。それはやはりセンサーの開発力の差だと思われます。
他では、ロボットはセンサーの塊です。原発の除染、災害対策ロボット等、ピンチをビジネスチャンスに拓く道を探るべきかと思います。
昔は電気電子工学の学生の7~8割が電器産業に就職しましたが、今は時代が違います。一時期システムLSIが盛んでしたが、今はそれも減ってきています。半導体は、電器産業以外の新しい産業にチャレンジすべきなんです。