今井元先生 元富士通/元日本女子大学 理学部 数物科学科
かつて日の丸半導体という言われ方がありました。世界をリードした日本の半導体は、今や競争力を大きく落としています。中国、台湾、韓国にも負け続け、大苦戦しています。液晶も負け、日本が強いのは、USBメモリなどに利用される記憶装置、フラッシュメモリーくらいじゃないでしょうか。
なぜ日本の半導体は全敗したのでしょう。私はその理由の1つとして、前回、アナログ電気回路を大学で教えるところが少ないことを指摘しました。確かに最先端の半導体研究は各段に進歩しています。でも半導体デバイスを支える学問を見ても、基本の集積回路の学問から、いきなり量子デバイスとかスピンデバイスなど最先端デバイスの話に行ってしまうんです。現状の基本デバイスと先端デバイスの間をつないでいるものが見えてこないんですね。
工業高専や専門学校でも学ぶ、電気を動かす理論の基礎中の基礎と言えるものを、大学で教えなくなっていること。それが日本の半導体の失速の大きな理由の1つだと言えないでしょうか。
同様に大学で教えていないものに、半導体の微細加工技術があります。夢の新素材と言われる炭素繊維の切断加工技術を例に挙げてみましょう。少し前に、ボーイングに炭素繊維が使われ話題を呼びました。炭素繊維の弱点は、切断・加工が難しい点にあります。以前は、赤外線のレーザーを用いて、熱で溶かして切断するという熱加工の方法がとられていたんですが、最近はどんどん進歩して、波長域の短い半導体レーザーを使った、非熱加工という方法を取ります。熱でなく、原子構造を破壊し、焦げ跡がつかない方法です。眼科のレーシック治療と同じ原理なのです。
そういったふうに、非常に小さなレベルでの切断加工法として、半導体レーザーはたいへん有効ですし、優れております。ところが残念ながら、日本の半導体は、ナノ微細加工技術がたいへん弱いのが現状です。日本の半導体が盛り返すためには、もっとナノ微細加工技術を学ばせる必要があるんじゃないかと思います。
今流行りの有機ELは表示デバイスとして非常に将来有望ですが、研究している大学の先生は意外に少ないように思います。大学の学問分野を見ても、有機ELは、わずかに材料化学の1分野「有機・ハイブリッド材料」に押し込められているのが現状です。少なくとも、電気電子工学、ナノ科学、材料科学の3つの学問分野の学際・連携が必要でしょう。それくらいしないと、日本の半導体のV字回復はできないだろうと思っています。