この仕事をするならこんな学問が必要だ<非鉄金属業界編>

幅広い用途のある非鉄金属は、化学系にはたまらないマテリアル研究の宝庫

三菱マテリアル株式会社

中央研究所 都市資源リサイクル研究部 岡田智さん

※所属・肩書は取材時のものです。

第3回 無機化学系の人材が中心。非鉄金属の製錬で必須の学問は大学から消えつつある

様々な非鉄金属の材料を扱う企業で、求める人材と必要な学問について話しましょう。

 

当社のように幅広い素材を扱う企業では、どのような配属先でどのような仕事をするかわからないところがあります。どこに行っても対応できる柔軟さがまず求められます。技術系の仕事としては、技術開発職、製造、生産、品質管理などの仕事があります。

 

また、最近重要性が高まっているものに、安全管理の仕事があります。ここ10年ほど、世の中が環境問題に対する安全対策の比重が高まっているのです。

 

それらを含めて、弊社で採用される技術系の人材は、大まかに言って、化学系、材料系、機械、電気電子系の4つになります。セメント製造の部門には土木工学出身者が多いということはありますが、材料系の会社ですから、その中でも化学系、特に無機化学系の人材が基本になります。ちなみに製鉄は還元反応で作るのですが、銅はひたすら酸化反応で製錬します。いずれにせよ基本となるのは無機化学です。

 

冶金は銅製錬に必須の学問

 

今、大学の学問とのミスマッチで深刻なのは、非鉄金属の製錬で必須の学問であるはずの「製錬」を、大学で教えなくなっていることです。私たちの時代に習った学問名で言えば冶金ですね。冶金とは、鉱石やその他の原料から有用な金属を採取・精製・加工して、種々の目的に応じた実用可能な金属材料・合金を製造すること。冶金は銅製錬に必須の学問なんです。

 

材料工学の出身者でも最近の学生は、流行のナノテクや薄膜に惹かれる人が多いんですが、昔からあった製錬・金属材料を大学で教えなくなっているんですね。もちろん金属・資源生産工学の分野に、今も反応・分離・精製という製錬に関わる学問分野がなくはないんだけど、たぶんそれはきれいな高純度の反応・分離・精製であって、われわれがやっているような、ゴミから金属を取り出すような話ではないのです。そこに危機感を持ち、化学的な製錬に必須の電気分解の講座を復活させようという大学の先生もいらっしゃるんですが…。

 

また、製錬には、鋳造・鍛造という物理的な力を加え金属加工することが必要なんですが、これも大学であまりやらなくなってきています。そういう研究者がまったくいなくなったわけではありません。しかし、非鉄製錬の最も土台となる部分が大学から消えつつあることは大きな課題でしょう。

 

おわり

岡田さん ミニインタビュー

◆大学での研究・学んだことは、今の業務にどうつながっていますか。

 

大学院での専攻は冶金(やきん)学で修士での研究は乾式製錬(高温で金属を溶かす製錬)に関するテーマでした。

 

入社後研究所で超電導やチタンの鋳造の開発の後、湿式製錬と呼ばれる主に水溶液を扱うプロセス開発に携わり、開発した成果で工場を建設し現場での操業も経験しました。大学院での研究は乾式製錬でしたが大学院受験の際金属学全般についての基礎を勉強したので、業務での移行に困ることはありませんでした。新たなテーマが見つかると基礎を踏まえて文献や特許で応用技術を身につけることができました。

 

◆高校時代は、どのように学んでいましたか・何に熱中していましたか。

 

勉強は小テストや宿題に追われ必死にこなしていました。ただ、必ず範囲は最後までやり遂げるようにしていました。軽音楽部でギターを弾き、友人の多かったラグビー部の試合を観戦し友人と一緒にいることが一番楽しかった。(今でも年に数回会っています。)

 

◆高校時代の経験で今に生かされていることはありますか。

 

勉強の経験からは目標を決めたら必ずやり遂げること。生活面では友人とのコミュニケーションを充実させること。

 

◆高校生が、授業や課外活動等で、この業界に関連した技術、知識(学問)関する課題研究や学習をするとして、どんなテーマ・課題が考えられますか。

 

・太陽電池はどのようにして光から電気を作るのか。また、どうすれば、より効率の良い太陽電池になるか。

・金属はなぜ曲がるのか。種類によって曲がり方が違うのはなぜか。

・アルミやチタンは酸化されやすいのになぜさびないのか。

・古代文明が青銅器から鉄器に移ったのはなぜか。

 

岡田さんから高校生へのおススメ本

『武器としての決断思考』

瀧本哲史(星海社新書)

決められたマニュアルに従うだけでなく、自らの頭で考え、判断し決断することが重要です。その思考を武器として使うための方法を述べています。


『生物と無生物のあいだ』

福岡伸一(講談社現代新書)

テーマは生物学であるが大局的にみると科学の奥深さが伝わってきます。また、文章が上手く読みやすいので科学技術に興味がある人ならワクワクして読めるはず。


『ホーキング、宇宙を語る』

スティーヴン・W・ホーキング、林一:訳(ハヤカワ文庫)

言わずと知れた名著です。宇宙と物理学の世界で深い感動を味わえます。


『神の火』

高村薫(新潮文庫刊)

原発技術者がスパイだったら? 大震災のはるか前に書かれた本ですが、リアルで緻密な構成は科学技術と倫理、セキュリティの重要性を考えさせられます。


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