株式会社ニッキ元社員
松尾宏さん
ニッキや、ニッキに部品を納める企業での技術職に必要な学問としては、アルミのような軽金属、ゴムのような高分子の材料工学があります。また、機器を制御するための機械工学も必要です。ただし、大学で学んだだけでは、企業で使えるレベルの知識・技能にはほど遠いものがあります。
禁止物質の把握には、元素周期表の理解が早道
私が携わっていたキャブレターを例にとると、材料に関して必要な知識には、例えば、車に使ってはいけない禁止物質があり、国や地域によって規制が異なります。銅と亜鉛の合金である真鍮を使うとすると、JIS規格上は銅と亜鉛しか入っていないことになっていますが、あるとき、安い真鍮から禁止物質のカドミウムが検出されて問題になりました。カドミウムとは、イタイイタイ病の原因となった毒性のある物質です。なぜカドミウムが真鍮に入っていたかというと、中学・高校で学ぶ元素の周期表を見ればわかりますが、亜鉛もカドミウムも第12族元素で、鉱山で亜鉛を採掘する際、常に亜鉛にカドミウムも含まれているためです。
また、最近の傾向として、ハロゲン系化合物をハロゲンフリー材料(ハロゲン系難燃剤無使用材料)に代替することが求められています。ハロゲン系化合物とは、元素の周期表で17族であるフッ素、塩素、臭素、ヨウ素、アスタチンが含まれている物質のことで、周期表を参照することにより理解が早くなります。その他、使用禁止物質の一覧表が自動車メーカーから配布されています。
フーリエ級数は、自動車業界では共振防止に重要
大学時代はテストに合格することしか考えないものですが、フーリエ級数(複雑な周期関数を三角関数の足し合わせで表す方法)は、熱伝導、電気工学、振動の解析、音響工学、光学、量子力学、経済学など様々な分野で用いられる重要なものです。
そして自動車業界では、フーリエ級数は共振の防止のために重要です。車を高速で走らせるとウィーンという音が急に高くなりさらに速度を上げると収まります。冷却ファン、オルタネータ、タイヤ等です。例えば自動車のタイヤには溝が掘ってありますが、溝の寸法はばらばらです。もし同じ寸法であれば、特定のスピードで共振して大きな音が出てしまいます。車体やその他の部品も共振すると壊れることがあり、それぞれ共振しないような設計が施されています。
実験の現場ではフーリエ級数を用いたFFT(Fast Fourier Transform )アナライザーを使用し、振動、音、固有振動数等の波形を直接観測し、周波数成分の解析をし、共振周波数の振幅を落とす工夫をします。