「理工系人材育成に関する産学官円卓会議」に参加して考えたこと

アクティブラーニング以上に、社会につながる姿勢が生み出す、高校の教育力と社会的意義

〜産業界になかなか理解されない、工業高校や教科「情報」の存在

神谷弘一先生 全国高等学校長協会/愛知県立豊田工業高等学校長

第3回 SPH(スーパー・プロフェッショナル・ハイスクール)を超えて  〜熱意と工夫を盛り立てる高校全体の支援が、次につながる!

 

豊田工業高校は、2014年度、専門高校としてより一層高いレベルの教育を行うための工業高校として、SPH(スーパー・プロフェッショナル・ハイスクール)指定校になりました。

 

SPHの良い点は、特別な教育プログラムを用意しての人材育成ができるということです。

 

一部の生徒のために特別な技術力向上を図る、少人数のコースもできました。具体的に、豊田工業高校の学科の1つ、機械科の旋盤特化コースでは、SPHの取り組みの1つとして、高校生としては非常に高度な機械加工技能士普通旋盤作業2級の資格取得を進めています。旋盤とは、回転する金属材料に刃物を当て、これを移動させながら切削加工を行う最も基本的な工作機械です。誤差100分の1ミリ~1ミクロン単位の精度でものづくりする、すごい匠の技術力なのです。

 

絶滅危惧分野の教育の必要性が、円卓会議でも出ましたが、特定分野の人材育成も大事ですし、専門高校全体を盛り上げることも大事なのです。

 

しかし、予算が必ずしも潤沢というわけではありません。制度的にも、1台数百万円もする旋盤等の装置を購入できるわけではありません。一番使いたい、生徒の交通費にもお金は使えません。活動はできるようになったとしても、そのためには生徒が移動する必要があります。しかし、その部分は自費にならざるを得ないために、大きな制約になっています。

 

豊田工業高校の生徒は、早くから近くの小学校に出向いて、出前授業を行っています。例えば、空気と圧力の勉強のために、小学生にペットボトルロケットを作らせ、野外実験をしている。それでものづくりへの興味を掻き立てられ、「豊田工業高校に行きたい」という小学生も増えました。幼稚園に出前授業に行くこともあります。うちの工業高校生が作った木工パズルで園児と遊んだりするのですが、さらには幼稚園の園舎の修理までやる(笑)。ペンキを塗ったり、フェンスを修理したり、得意のものを作る力を活用した社会貢献ですね。

 

ただし、これらの試みは実はSPHの指定を受ける前から行っている教育実践です。つまり、大事なことは、SPHをめぐって議論することよりも、その熱意や工夫を重んじる雰囲気を作るということではないでしょうか。先ほど申し上げたように、「ものを作る人」の存在が、理工系人材育成の議論で出てこないように、専門高校を盛り立てて行く気運はあまり感じられません。

 

結局、大きいのは、その制度以上に、技術と教育への熱意と工夫です。そして、その鍵は、教師ではないでしょうか。今、小学校で理科や実験の得意な教師が不足していることが話題になっており、そのための学び直し講座の開講が必要であると指摘されます。

 

ただ、私は、そのこと以前に根本的に教師になる大学の教員養成の段階で、教育実習として、1-2ヶ月の企業での実習を必修として課し、教える知識・技術が実際の社会や生活の中でどう活かされているかなど、産業界の現場を、身をもって知る経験も必要だと思います。

 

さらに、工業という科目の教員に関して言うと、そもそも養成する大学・学部・学科も減ってきています。こういう実態もきちんと考えていく必要があるのではないでしょうか。

 

運営:リベルタス・コンサルティング

 (協力:河合塾)

 

 

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