「産業界と教育機関の人材の質的・量的需給ミスマッチ調査」(経済産業省)

社会人42,000人アンケート結果概要ー学科選択と分野規模をめぐる課題を中心に〜理系女子の選択、高校教員の専門分野観、IT人材の出身など

「みんなの教育」運営事務局/河合塾

仕事と大学の学問の関わりについての<データ集>(進路指導用)はこちら

・45学科別の就職や卒業生の必要な分野、やりがい・年収

・193の業職種別出身学科や必要な分野と大学での学び、やりがい・年収

・その他、地域別やキャリア教育で使える説明用スライドなど

 

◆参考◆特集 学科はどう選択されるか 円卓会議から

「需給ミスマッチ」につながる、学生の進路選択に影響を与える、初中等教育段階での要因などについて

~女子や教員をめぐる課題や情報分野の可能性など~

「産業界の人材ニーズに応じた理工系人材育成のための実態調査」概要編


現在、経済産業省が中心になり、地域・企業に開かれたキャリア教育を盛り立てるべく創設したキャリア教育コーディネーター制度の立ち上げ支援として、本サイト『みんなの教育』を、また、働く人のやりがいにフォーカスを当て中学生に仕事を身近に感じてもらうサイト『わくわくキャッチ!』を、河合塾では運営しています。その一環として、平成27年3月に、文部科学省が公表した「理工系人材育成戦略」を受けた、日本学術会議会長で豊橋技術科学大学学長の大西隆先生とトヨタ自動車株式会社会長で日本経団連副会長の内山田竹志氏を座長とする、「理工系人材育成に関する産学官円卓会議」にも関わり、様々な調査データも、提示してきました(※)。

 

※平成26年度 経済産業省産業技術調査事業(産業界と教育機関の人材の質的・量的需給ミスマッチ調査)

平成27年度 経済産業省産業技術調査事業(産業界の人材ニーズに応じた理工系人材育成のための実態調査)

 

Ⅰ.「理工系人材育成に関する産学官円卓会議」と、そこでの話題について

~産学で求める専門分野のずれの現状から、裾野拡大としての理系女子の進路選択の課題など

その円卓会議(平成27年5月設置)では、「博士人材の活用」などと同時に、「産学で求める専門分野のずれの現状」や「初中等教育での教育・進路選択等の課題」について議論がなされ、平成28年8月、理工系人材育成のために産学官が取り組むべき、具体的な行動計画がまとめられました。

 

公表された調査データに関しては、WEBサイト『みんなの教育』で一部紹介してきましたが、そのデータは、人文社会系の分野も含めた、大学の学部・学科や専門学問分野の、社会との関係における意義を問うもので、高校生の進路選びにも有効な視点も提供できると考えられる内容です。その概要を紹介いたします。

 

円卓会議では、まず、産業界で必要とされる専門学問分野に関する平成26年度調査(※)の結果が報告され、大学の研究者はバイオ分野に多い一方、産業界における企業での業務は、情報系・機械系・電気系との関わりが大きいということが指摘されました。

 

●企業における現在の業務で重要な専門分野(技術者)と大学における分野別研究者の分布

そして、別格的に情報分野に企業内の教育時間をかけているという実態も示されました。

 

※45歳未満の大卒等社会人(約4万2千人、うち技術系人材約1万人)を対象に、大学で専門的に学んだ学問分野と自らの業務に重要な学問分野等について聞いたアンケート(平成27年1~2月実施)

 

1.女性のバイオ志向と企業ニーズとのずれ

そこで、理系出身者の技術系職種の出身の専門分野を、男女別に見ました。すると、男女共に企業においては情報分野に対する専門学問ニーズが高いにもかかわらず、それを専門とする人が少ない傾向にあることがわかりました。さらに、女性の場合には、業務で必要とする学問分野と、出身の専門学問分野との違いが目立ち、分子生物学・薬学・食品を中心に、化学、都市・建築、デザインなども多いことが指摘されました。

特に、SSH校など、理系志向の多いとされる高校出身者にバイオ分野を選択する女性が多いこと、バイオ分野で学ぶことが、将来の資格や仕事につながると考え、進路を選択する女性は、男性以上に多いことも明らかになっています(平成27年度調査[※]より)。

 

※40歳未満の社会人(1万人)を対象に、自身の初中等教育段階を振り返り、文理・進路選択に影響を与えた要因について聞いたアンケート(平成27年12月実施)

 

●理系進学した女子における、高校での在籍学科別にみた学科選択率

●学科選択で重視した観点

2.産業界ニーズと高校の先生方の認識との乖離傾向

一方、高校における実際の進路指導状況について行った平成26年度の調査(※)の結果からは、高校の先生方は、環境や、ロボット、ナノテク、新素材、家政、バイオ、看護などの分野が、実社会で有効と考えている傾向があることがわかりました。

 

※高校教員(約500人)を対象にした、高校における進路指導状況についてのアンケート(平成27年3月実施)

3.社会や仕事を意識した、大学への進路指導の難しさ

大学への進路指導について、高校の先生方に「どういう観点の指導が重要か」(赤)と聞いた上で、「現実の指導で伝えていること」(青)について聞きました。「現実の指導」で、「学問と実社会の仕事との関係」を伝える指導は、「仕事に有効な教育や学部・学科の重要性」を意識しているほどには、なされていないことも示されました。

4.産学官円卓会議での、高校に向けての提言から

産学官円卓会議が平成28年8月に取りまとめた行動計画(※)では、

●とりわけ理系女性を優先して、学生が就職を希望する業種ごとに、産業界が学生に求めるスキルを簡単に把握することができるシステムを構築する。

●高等学校情報科を始めとする情報教育などが重要である。

●中学校や高等学校における進学の際の志望校選択、あるいは学部・学科の選択の段階においては、生徒の興味・関心や産業界の現状、将来の就職に配慮した進路指導の在り方について検討を進める。

などの高校の指導の在り方についても盛り込まれました。

 

「理工系人材育成に関する産学官行動計画」(平成28年8月)の全文はこちら

 

Ⅱ.産業界につながる学科と仕事から見た学問分野について

~42,000人の社会人アンケートの集計・分析結果から

1.関連度の高い医療・教育・会計・土木と、想定外の環境・材料等

~学科別、産業界との関連度合い

円卓会議での検討に用いられた調査データのうち、大学の学問分野と産業界、仕事との関連度合いを明確にしたデータは、高校等における学生の進路選びにも有効ではないかと思われます。例えば次のグラフは、大学における45学科それぞれの卒業生について、「自らの業務と、大学の専門学問分野が関係している」と答えた人の割合、および「高校時代、大学で学んだ自らの専門分野は、将来の仕事につながると思っていたが、実際はつながっていない」と答えた人の割合を示しています。

 

環境系、材料系などの学科においては、「高校時代、つながっていると思っていたが、実際はつながっていない」と答えた人が多いことが、わかりました。

 

●出身者の考える業務との関わり

2.環境系出身者が必要なのは、環境、機械、材料、土木、情報など

~出身者の業務で必要な学問分野から、学科の教育を見る

下図には、環境系学科の卒業生の就職傾向などを示しています。

 

就職先としては、建設業界の技術系、公務員の事務系に加えて、商社・小売業等サービス産業やコンサルタントの事務系職種が多いことがわかります。

 

●出身者の業職種傾向

出身学科別に見た現在の仕事(業種・職種)
45学科の業職種.pdf
PDFファイル 1.2 MB

そして、それら業職種に就いた卒業生が、業務で必要としている学問分野としては、環境系以外の機械や材料、土木や情報などの学問分野が挙がっています。

 

●業務で必要な専門分野と出身分野

45学科別_業務で重要vs大学等での専門分野.pdf
PDFファイル 811.4 KB

もう一つの例として、経営工学・管理工学の出身者を見てみますと、その多くは、情報分野出身者の進路でもあるIT・ネットサービス・アプリが就職先の中心になっています。

 

●業務で必要な専門分野と出身分野

●出身者の業職種傾向

3.愛知県では機械、神奈川県では情報分野の人材は未充足か

~地域の産業傾向に合わせた進路選択は必要か

地域の人材としては、例えば、愛知県は、(トヨタを代表とする自動車メーカーで知られますが、)機械系の技術者が多いことがわかります。それに合わせて、出身学科は、機械系出身者が多いのですが、業務レベルになると、機械工学を専門として学んできた人は、足りないことが指摘されました。

 

一方、神奈川県は、(東芝・富士通・NECなどの大手の電気メーカーの存在が知られますが、)電気・電子系とIT・ネットサービス系の技術者が多いことがわかります。それに合わせて、出身学科は、電気・電子系と情報系の各出身者が多いのですが、業務レベルとなると、情報分野を専門として学んできた人が顕著に足りない傾向があることが、示されました。

 

●社会人の業職種傾向 

●理工系出身者の出身学科の傾向


県別にみた現在の仕事
47地域の業職種.pdf
PDFファイル 903.4 KB
47都道府県別_業務で重要vs大学等での専門分野.pdf
PDFファイル 893.6 KB

4.業種別、業務に必要な学問分野

~金融はファイナンス、ホテルは地域研究、電気はアナログ回路、医薬品は薬理学

仕事において必要とされる学問分野は、業種・職種によっても異なります。それぞれの業種における業務従事者が、実際の業務で関係すると考えている学問分野を、大学で必ずしも学んでいないケースも多いことも浮かび上がっています。(金融業界では、ファイナンスが関係する人が13.5%いるのに対し、専門として学んできた人は、10.7%少ない2.8%でした。医薬品業界では、分子生物学が関係する人が5.9%であるのに対し、専門で学んできたい人は、7.8%多い13.7%でした。)

 

5.職種別、業務に必要な学問分野/IT・ネットサービス・アプリ業界を例に

~人工知能よりも、まずは、ハード・ソフト・プログラムという基礎

同じ業界でも、職種毎で、必要な分野が異なり、出身の学生の傾向も異なることも示されました。

 

IT・ネットサービス・アプリ業界では、どの業種でも、不可欠な学問分野は「ハード・ソフト・プログラム」になるのですが、業界の中心で「設計・開発」を担う職種では、「ハード・ソフト・プログラム」を専門としてきた人は多いものの、まだまだ足りないことが示されました。

 

技術を通じて営業や企画を担う「技術系営業・企画」も、同様な傾向が見られましたが、「統計」分野が重要なことも示されました。しかし、それを専門としてきた人も不足していることがわかりました。

 

一方、「研究」職では、「人工知能」や「WEB」を専門としてきた人も求められていることがわかりました。物理が専門の人が、この職種に就いているケースも多いようで、また全体数も多くはないことがわかりました。

 

「経営・商品企画」系の職種では、「WEB」や「経営学」の必要性も高いようでしたが、大学では経済学や法律学を専門に学んだ人が多いようで、とりわけ大学教育とのミスマッチが指摘される職種となりました。

 

「コンテンツ制作」系職種となると、「WEB」分野が、とりわけ求められ、さらには「ハード・ソフト・プログラム」や「人工知能」も必要なようでした。しかし、就いている人は、大学では「文学、美学・美術史・芸術論、外国語学」を専門にした人が多いことが指摘されました。

 

「業務で重要」と「大学等での専門分野」との比較_25業種×25職種_機械.pdf
PDFファイル 366.4 KB
「業務で重要」と「大学等での専門分野」との比較_25業種×25職種_IT.pdf
PDFファイル 296.6 KB
25業種の学科と職種.pdf
PDFファイル 529.6 KB
技術系25業種の学科と職種_010の金融まで.pdf
PDFファイル 386.1 KB
25職種別学科と業種.pdf
PDFファイル 536.6 KB

6.業種の成長性や仕事としての満足度なども

そもそも、業界として業績が好調で成長傾向があるのか、それら仕事には「やりがい」はあるのか(満足度)などデータも提示されました。

 

●技術分野における好調で成長傾向にある業種

※9822人の技術系人材からの回答をもとに算出(回答率10%以上、50人以上の回答から)

●現在の業務にやりがいを感じているか

全体としては、医療・教育系が高く、また主に産業界を担う職種としては、技術系、事務系の順になることがわかりました。技術系業種では、建設など、技術系職種では、基礎・応用研究、先行開発やコンテンツ制作・編集など、事務系職種では、法務、知的財産・特許など、医療・教育系では、医師・歯科医師、獣医師、教員、幼稚園教員・保育士などが高いこともわかりました。

 

上記の内容は下記の報告書(pdf)でもご覧いただけます。ダウンロードしてください


「円卓会議」報告抜粋版2016.pdf
PDFファイル 3.0 MB

こちらもご参考ください

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~女子や教員をめぐる課題や情報分野の可能性など~

「産業界の人材ニーズに応じた理工系人材育成のための実態調査」概要編

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