「理工系人材育成に関する産学官円卓会議」報告

産業界の⼈材育成ニーズと⼤学等における教育に関する諸外国の状況

経済産業省大学連携推進室 宮本岩男室長
(第5回「理工系人材育成に関する産学官円卓会議」より)

今回は、諸外国における、産業界の人材ニーズと大学教育のミスマッチについてご紹介いたします。尚、調査にあたっては、NEDOの海外事務所、各国の日本大使館、JETROやJSTの方々へインタビューを行い、さらにいろいろな大学へヒアリングしたものをまとめました。

 

◆アメリカ

アメリカの大学は基本的に私立大学が中心で、基本的に定員という制度が存在せず、学生の獲得や学生の就職先の確保などの面においても、徹底した競争がなされています。授業料が高く、借金をして授業料を納めている学生も多い中、就職先がないということでは学部は存続しないと言います。

 

競争原理が厳しく働いているアメリカにおいては、わが国の抱えるミスマッチのような課題は考えられないということを、ヒアリングの中でいろいろな人に言われました。アメリカはマーケットメカニズムでミスマッチが調整される、非常にうらやましい国だと感じた次第です。

 

政府の施策としては、個別の具体的な細かい分野についてはマーケットで調整されるため特に政策は存在せず、基本的にはSTEM(=Science、Technology、Engineering、Mathematics、科学、技術、工学、数学)分野の卒業生を100万人増加させるといった、大まかな政策が取られているのが米国の特徴と言えます。

 

◆ドイツ

ドイツは職能別教育に力を入れているため、職業教育法に基づいて約330の職業を定め、必要に応じて職業の追加や削除を行い、それぞれの職業ごとに必要とする能力を規定し、職業ごとに職業教育カリキュラムを策定するということを行っています。

 

さらに、「デュアルシステム」と呼ばれている、学生を企業に派遣しOJTで教育する取り組みが一般的に行われているということです。

 

また、大学の学科の構成を決める会議には、大学の関係者に加えて経済団体など外部有識者が参画し、議論しています。

 

職業やそれに必要とする能力などを、非常に細かく一個ずつ規定し、それを積み上げてカリキュラムを策定する方式が築かれているため、顕著な人材ミスマッチは起きていないとされるレポートが多く見受けられました。

 

◆イギリス

イギリスは、おそらく国立大学の仕組みが日本とよく似ていると思いますが、定員の制度や運営費交付金の制度があります。

 

イギリスでは、産業界のニーズと大学の教育分野のミスマッチが課題となっています。特に金融産業が大きいため、優秀な理工系人材が金融系に流れてしまい、製造業では理工系人材が不足しているという報告が幾つかありました。特にコンピューターサイエンス分野においては、急速に需要が高まっているにもかかわらず、その分野を専攻する学生が減っているという問題に対し議論がなされているようです。

 

政策面については、イングランド高等教育財政カウンシル(HEFCE)があり、そこに産学のメンバーから成る委員会(SIVS)を設置し、高等教育に関する調査データ(学科別の卒業生の就職先等)に基づいて、国全体として戦略的に重要だが人が足りなく教育体制を強化しなければいけない分野はどこなのかといったことを検討しています。

 

こういった中で、特定分野で特別に対策を検討する委員会が立ち上がっています。一つはコンピューターサイエンスの分野で、人材育成をどうてこ入れするか、もう一つがSTEM分野で、理工系人材をどうやって増やすかについてです。

 

企業でのインターンやOJTなど産学連携教育については、全体の1割程度の学生に実施されており、非常に効果が高いということが産業界、学生側、大学側で認められているので、この動きは増える方向にあるということです。

 

下記は、イギリスの卒業生の就職先を専攻分野と就業分野の関連性を調査したデータです。分野により、どれぐらい大学で学んだ内容とかけ離れた内容の就職先に就いているかがわかります。このようなデータを参考に、分野の重要性などを判断しているということでした。

 

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◆シンガポール

National Manpower Councilという機関の下で、大学卒業後6カ月時点でのGraduation Employment Surveyという卒業生調査データを用いながら、産業ニーズと、大学での教育の定員など、需給ミスマッチがどういった分野にどの程度存在するかを把握し、それを大学の学部定員に反映させるということを毎年行っているそうです。

 

例えば、卒業生がどういった分野に就職しているかという就職状況や、あるいは初任給をみれば、高くなっていると人材が逼迫しているのだと捉えられるため、分野別の初任給のデータなどを集め、それらを使いながら、それぞれの学部の定員をNational Manpower Councilで決めます。そして、学部の中の学科ごとの定員については大学で、こういったデータも使いながら決めていくということでした。

 

シンガポールには5つの国立大学がありますが、そのうちの1つにヒアリングしたところ、ある分野で学生の定員を増やさなければならない場合、教員も増やさねばならず、国内で調達できない場合には、海外からも獲得してくるということでした。一方で、定員を縮小する分野の教員は、サバティカルの機会などを使い、別の需要のある分野の開拓をしてもらうということでした。

 

企業等におけるOJTやインターンシップについては、非常に積極的で、中長期インターンシップはエンジニアリング系では約3カ月から6カ月、全ての学生に義務付けています。大学としては相当多くの派遣先が必要なため、この国立大学では約3,000の企業と提携を結んでいるということです。

 

◆インド

インドの産業は、IT・サービス分野が非常に強く、製造業はやや弱いと特徴があり、やはりIT分野、サービス産業を中心に人材育成が活発である反面、製造業においては人材が不足しているという傾向があります。

 

教育機関は、インド工科大学(IIT)などの大学もありますし、技能者を養成する産業訓練校(ITI)のようなものもあります。

 

下図は、インドにおける大学卒業者(学位別)と、産業界における労働力の分布状況を分野別にまとめたものです。分野ごとの求人が赤線。グラフは、青が1年間の学士取得者、緑が修士取得者、赤が博士取得者の数です。

 

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分野をみていくと、IT分野では非常に学生の輩出量が多くなっています。特に修士に関してはITが圧倒的に多い状況になっています。分野によって若干ミスマッチがありますが、全体的には求人と、学生の輩出がそれなりに相関しているような印象を受けます。

 

以上、海外の幾つかの国の人材に対する産業ニーズと、大学教育との関係について報告させていただきました。

 

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