「理工系人材育成に関する産学官円卓会議」報告
中小企業における人材ニーズの状況等について
東京商工会議所ものづくり推進委員会共同委員長 (日本商工会議所推薦)
横倉隆氏
(第3回「理工系人材育成に関する産学官円卓会議」より)
私からは、中小企業にスポットを当てて、人材ニーズの状況等をご説明させていただきます。また、特定の産業に絞ってその人材育成の状況を紹介したいと思います。
中小企業の人材不足
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従業員数300人以下を中小企業と定義しますと、中小企業は圧倒的にその数は多く、全企業数の99.7%であり、全従業員数の約7割が中小企業に従事しているということになります。大卒の求人倍率は、大手企業に関しては、ここのところ少し右肩上がりで、1倍程度ですが、中小企業においては、圧倒的に倍率は高い水準で推移しています。まったくもって大卒の採用は足りていないということがここで示されております。
業種別に見ますと、特に建設業が顕著ですが、中小企業の全業種で人材不足だという結果がアンケートで出ています。
この人材不足に対する中小企業の対策としては、大卒や高卒・高専卒の新規採用の強化も挙がっていますが、中途採用の強化、抱えている人材の教育の強化を挙げている企業が多いようです。
また、人員確保のために要望される支援ですが、中小企業のほうからは、人材育成や職業訓練、採用活動、学生とのマッチングなどへの助成や支援の要望が挙がっています。
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インターンシップに関しては、社内の人員不足が課題となり、実施している中小企業の割合は極めて低く、10%を割っています。大企業においても、50%には満たないわけで、中小企業も大企業ももっと実施する必要があると感じています。
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製造業の採用動向
下図の上の2つの円グラフは、製造業の採用における、新卒・新卒以外の内訳です。中小企業(従業員300人未満)では、新卒が11%で、4万6000人。その内訳を学歴別に見たのが下のグラフで、中小企業においては、72%が高卒であり、一方、理系の大学・大学院卒では14%、6000人にとどまっています。
下図は、学歴別に大企業、中小企業の製造業への就職をまとめたものです。大学・大学院の理系の円グラフを見てみますと、中小企業へは17%。先ほどの求人倍率から鑑みれば、中小企業の大学・大学院理系に対しては、2万人以上の需要があるという計算になります。大企業並みの大きな受け皿が中小企業サイドにはあるにもかかわらず圧倒的に量的な不足があるということです。
下図は、製造業において、どんな人材が重要な役割を果たしているかというアンケート結果です。大企業のほうは比較的技術開発寄りであり、中小企業は生産現場寄りであると考えられます。また、中小企業では技能者の割合が高く、中でも熟練技能者が中小企業では重要な役割を果たした人材であると言えます。
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東京商工会議所では、企業と学校法人との情報交換会を行っています。下図の棒グラフは、その情報交換会で大学が面接した平均企業数です。総合大学の中は理系と文系が含まれているところも多いのでが、それも考慮し、理系大学と文系大学を比べてみますと、企業の理系人材への採用意欲が大変高いということが示されていると言えます。
以下も東京商工会議所の取り組みで、「東商リレーションプログラム」というものです。これは、大学入学後の大変早い段階で、社会の仕組みを知り、職業観を醸成するための学びを短期間で施すもので、これによって学生生活の過ごし方も変わるであろうと考え、商工会議所がつなぎ役となって、中小企業へのインターンシップを活性化させる取り組みです。1・2年次では会社ツアーから始まり、仕事の観察、そして、インターンシップと、このような流れでプログラムを作り取り組んでいるところです。
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以上をまとめますと、中小企業においては、大学・大学院の新卒、特に理工系新卒はまったく不足しています。就職先の受け皿としては、大企業並みに大変大きいパイがあります。新卒者へ期待する能力や資質は、大企業と大きく変わることはないと考えています。活躍の場としては、かなり守備範囲が広く与えられるということもあり、成長機会が大変多いのが中小企業の特性と思います。そういうことも含めて、学生の関心を高めるアピールを中小企業自身から積極的に行っていく必要があると考えております。
光産業分野の人材育成
私自身も企業では光学産業の中におりました関係で、光産業分野の人材育成を紹介いたします。
この分野は、日本の産業力としては高い分野でありますが、教育サイドのほうは規模・内容ともに拡大が必要であるというのが現状の課題です。この分野に関する学部・学科は久しくなくなっていましたが、現在は、光産業創成大学院大学、千歳科学技術大学の2つが光に関する教育を行っています。宇都宮大学にも教育センターがあります。ただ、まだまだ規模は大きくなってきていません。
企業サイドでは入社3年まで新人教育としておりますが、自社内だけでは対応できず、工業会、関連団体で共通基盤技術について教育しています。一例としては、オプトメカトロニクス協会を挙げましたが、このような教育なくして、新人を育てることが、企業の中ではできないという状況になっているいます。
産業界サイドからは、やはり光産業からの具体的な教育ニーズを、大学等教育機関に伝え、教材や講師の派遣なども提供する必要があると思います。
一方、大学サイドとしては、光産業から見て体系的・系統的な教育体系を作り、教育環境を備えていく必要があると思います。クォーター制を取り入れるなどして、社会人にも学びやすい環境を整える必要もありますし、また、光に関する講座開設が、外からわかるようにデータベースを整備する必要もあるでしょう。社会人にも大学の授業が受けられるところがありますので、是非、大学サイドは、それらを社会人の学びの場にもなるような努力もしていただきたいと思います。
また、大学院での人材育成においては、まず教員が変わらなければいけないと思っています。特にエンジニアリング系の教員は、産学協同研究を義務化する必要があると思います。そういう中で研究に携わる院生が育つということは、産業界とのつながりにおいても、いい人材育成になると思います。
2008年から2018年の10年間にわたる、ネットワーク拠点形成プログラムという取り組みがあります。これは、光産業の人材を強化するためには、博士課程より人材を多く輩出する必要があるということで、東京・大阪で大学、研究所の9機関が加わり行っている育成プログラムです。全体で博士を100人輩出することを目標としていますが、現在の見込みでは、200人くらいになるということです。このような取り組みが、産業界ごとで行われるとよいのではないかと思います。