「理工系人材育成に関する産学官円卓会議」報告
産学官連携を通じた理工系人材の育成について
内山田竹志氏 日本経済団体連合会 副会長/未来産業・技術委員会 委員長
/トヨタ自動車株式会社 取締役会長
(第2回「理工系人材育成に関する産学官円卓会議」より)
新たな基幹産業の育成を重点課題に
経団連では、2015年1月に、2030年のあるべき日本の姿を見据えた、「『豊かで活力ある日本』の再生」と題する将来ビジョンを発表しました。「イノベーション」と「グローバリゼーション」を進めていくことで、日本経済が再生できると強調しています。その中で重視すべき総合課題の1つとして、理工系人材の活躍が特に期待される、「時代を牽引する新たな基幹産業の育成」を挙げました。
新たな基幹産業の育成のためには、ものづくりとサービスの融合など、グローバルに進展する産業構造の変化を捉えた対応が求められています。具体的には、「本格的なオープンイノベーションの推進」「IoT・AI等、最先端技術の活用」「学際的知見を持つ人材の活用」などが、鍵であると考えられています。とりわけ、産業界は「オープンイノベーション」を重視し、その原動力として、産学官連携に大きく期待をしております。
産学官連携による理工系人材の育成
産学官連携を通じた理工系人材の育成には、産学官で課題・ニーズやビジョンなどを共有し、基礎から実用化までのフェーズを連携して推進することが重要です。具体的には、内閣府を中心に進められているSIP(戦略的イノベーション創造プログラム)やImPACT(革新的研究開発推進プログラム)のような府省横断型で基礎・応用・実用化の各研究フェーズを産学官一体で推進し、そこから優秀人材や大学発ベンチャー企業等が創出されてくることが重要だと思います。
下図は、欧米の、産学官連携を通じた育成の成功例です。研究所の所長と大学教授が兼務している、人材育成・雇用につながる企業との連携システムが存在しているなど、地方の産業クラスターの形成にも大きな役割を、これらの研究所・大学が果たしているといった共通点が見いだせるものと思っております。
国内においても、地域に産学官のネットワークを形成し、大学、自治体、研究機関、企業が集まり、一つ屋根の下で研究を行うことが有効と考えられています。下図は、名古屋大学における将来のモビリティーの研究拠点の例ですが、こうした拠点が、今まさに、中部、北陸、北九州など、各地域に形成されつつあります。
理工系人材の拡充に向けた具体的な提案
昨今、理工系人材が減少し、それが産業にも具体的なダメージを与えつつあるということが、第1回円卓会議でも共有されました。そこで、産学官で取り組むべき課題である、「理工系人材数の減少」、「製造業技術職における女性比率の低さ」、「産業界・教育界の分野のミスマッチ」、「理工系人材の学ぶ機会や基礎学力の低下」、「産学官の基本的な信頼関係の不足」という5点について、解決に向けた具体的な取り組み等を紹介いたします。
まず、「理工系人材数の減少」という課題。下図は、日本とドイツの学部学位取得者の、専門分野比率に関するデータです。日本では2007年から2013年にかけて、理工系学部の学位取得者が約3ポイント減少していますが、ドイツでは2006年から2011年の間で2倍弱に増えています。ドイツでは、昨今、いわゆる第4次産業革命など、まさに理工系人材の力を生かした取り組みが進んでおり、具体的成果が実を結びつつあると考えられます。日本も、それらから多くを学び、キャッチアップする必要があると思います。
また、製造業の技術者における女性技術者比率は現在1割程度にとどまっており、その育成加速も求められています。そこでトヨタグループ10社では、「トヨタ女性技術者育成基金」を立ち上げ、奨学給付制度やインターン、出前講義などの活動を現在推進しています。また、理工系の大学に進学する女性の母数が少ないという課題に対しては、初等・中等教育段階での啓発活動の一環として、内閣府と経団連で協力して、「夏のリコチャレ」という、夏休み中の各社の職場見学などのイベントを、一元的に周知する活動を行っております。
企業・大学間の分野のミスマッチという問題については、経済産業省の宮本室長からの報告を参照ください。→こちらから
そして、理工系人材の学ぶ機会や、基礎学力の向上も併せて進めていく必要があります。産学連携を軸とした人材育成の取り組みが最も重要ですが、加えて経団連の関連団体である「経済広報センター」では、大学生向けに「企業人派遣講座」という、経営者や技術者による出前講義を20年以上前から行っています。また、企業にいる技術者の基礎学力を高めるために、日本最大級のオンライン教育であるJMOOCと経団連が連携して、技術者の学び直しについての講座の開設を準備しています。
最後に、産学官連携・理工系人材への期待感を醸成する上では、国立大学・研究開発法人の改革を更に進めていく必要であると考えています。すでに指摘はされていますが、産学官連携を拡大する大学のガバナンス体制の実現、産業界のニーズの高い絶滅危惧学科に関する対策、教育・研究の質保証などをともに議論していきたいと考えています。
以上まとめますと、新たな基幹産業の育成に向け、企業はオープンイノベーションを通じた成長が不可欠になっており、そこでは産学官連携の重要度が大きく増しています。本格的な産学官連携プロジェクトを実現すること自体の重要性は論を待ちませんが、そうしたプロジェクトを通じ、学際的な知見やコーディネート力を持つ、優秀な理工系人材を育成することが極めて重要であると考えております。また、これと合わせて理工系人材の量的・質的な充実に向けて、女性人材増に向けた施策、初等・中等教育段階での啓発、大学改革なども、強力に推進すべきだと考えています。