「理工系人材育成に関する産学官円卓会議」報告
博士人材の多様なキャリアパスの確保に向けた文部科学省の取組
文部科学省大学振興課 室長 猪股志野氏
(第4回「理工系人材育成に関する産学官円卓会議」より)
文部科学省中央教育審議会大学分科会で、平成27年9月に、大学院教育の改革の方策についてまとめました。「7つの基本的方向性と卓越大学院の形成」という提言をいただきましたので、紹介いたします。
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「体系的・組織的な大学院教育の推進と、学生の質の保証」が第一の基本方針としてうたわれております。特に、研究室の指導教員の研究活動に依存しがちな博士課程教育については、研究科や専攻の枠を越えた幅広いコースワークから研究指導につながるような教育課程の編成を促進すべきである、というご提言をいただいております。また、産業界からの学生の質保証の要請を受け、厳格な成績評価と修了認定ということも提言をいただいているところです。
「(2)産学官民の連携と社会人の学び直しの促進」の中では、教育課程の開発・実施の段階から、企業と協働していくこと。また、大学教員と企業研究者との人事交流を推進していくこと。それに当たっては、特に知財ルールをあらかじめ設定をすることが重要である、というご提言をいただいております。また、大学院生の産学共同研究への参画。また、過去の大学院重点化で最も増えたのは工学系の修士だと言われておりますが、修士を持った、社会人の博士号取得を促進していくべきである、というご提言もいただいています。
「(4)大学院修了者のキャリアパスの確保と、進路の可視化の推進」の中では、キャリアパスの多様化のため、個々の研究室に依存するのではなく、全学的な支援体制を産業界との理解のもとで促進していくべきであるということや、また、修了者の活躍の状況を大学側も把握し、学生や企業の方にも見える化していく、それを認証評価制度の中にも取り入れていくべきであるというご提言もいただきました。
その他に、「(6)教育の質を向上するための規模の確保と機能別分化の推進」の中では、社会的な需要を踏まえた学生定員を見直すべきであるというご提言や、「(7)博士課程(後期)学生の処遇の改善」の中では、非常に経済的に厳しい状況にある、我が国の博士課程学生に対して、政府の科学技術基本計画にある「約2割の博士課程学生への生活費相当額程度の支給」の目標達成に向け、国の支援のほか、企業や国立研究開発法人によるリサーチアシスタント雇用の形での支援を含め、支援を拡充していくべきであるというご提言をいただきました。
また、中教審の審議まとめでは、卓越大学院(仮称)を形成し、国として重点的に支援していくべきである、というご提言をいただきました。新産業の創出に資するような領域も期待されると言われています。卓越大学院の詳細な制度設計は、本年度中を目途に、文部科学省において産学官からなる検討会を設置し、検討していきたいと考えております。
以上のように中教審からのご提言をいただきましたので、文部科学省としては今後、来年度以降の大学院教育振興施策要綱を策定していきたいと考えています。
博士人材の多様なキャリアパスの確保に向けた取り組み
博士人材の多様なキャリアパスの確保に向けた、文部科学省の取り組みをご紹介いたします。
第1回円卓会議において、文部科学省より、博士課程教育リーディングプログラムをご紹介いたしました。従来の研究者養成を主目的とした博士課程教育から、大きく転換をするような取り組みを、現在、33大学、62プログラムにおいて進めていただいているところです。
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また、文部科学省の科学技術・学術政策局で進めている支援策として、博士号取得後のキャリアパスがないという課題を踏まえて、長期のインターンシップを行う大学を支援し、また、大学の中にキャリア支援システムを作っていく取り組み等への支援事業を行っています。平成20年度から始まり、これまでの支援拠点は全国38大学となります。
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具体的な事例として、名古屋大学の取り組み例を紹介いたします(下図)。個人面談からセミナー、長期インターンシップ、企業との交流会など、様々な取り組みをしています。分野としては、就職が比較的厳しい状況にあるバイオ、農学、物理学などの学生が多いと聞いております。成果としては、平成18年度の就業率50%に対して、徐々にアップし、平成25年度には67%と、20ポイント近く上昇したと聞いております。
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来年度の新規の施策として、「卓越研究員制度の創設」として、15億円の概算要求を行っております。これは、准教授や助教等の若手が、自立して安定的に研究を行うことができる環境を実現していくための支援事業として、計画しているものです。民間企業も支援対象となっていますので、ポストを用意していただければ、スタートアップの研究費や研究環境整備費を一定期間ご支援申し上げるという内容になっています。企業の方にも直接ご説明しているところですので、企業の皆様にもご関心を持っていただければと思います。
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