「理工系人材育成に関する産学官円卓会議」報告
創造的・実践的技術者の育成を担う高専教育
独立行政法人国立高等専門学校機構 小畑秀文先生
(第3回「理工系人材育成に関する産学官円卓会議」より)
高等専門学校は、全国に57校(国立51校、公立3校、私立3校)あり、ほぼ各県に1校ずつ配置されている状況です(不設置県は5県)。1962年に最初の高専が生まれ、まさに日本の高度成長期にあわせて高専が増え、卒業生が産業界で活躍してきました。
本科の入学定員は、全高専で1万500名程度。5年間の課程ですので、全体で5万5000人くらいが在学しています。本科修了後に進む専攻科は全体で約3000人です。
高専の学科は、ほとんどが工業系学科です。機械系、電気・電子系、情報系、化学系、建築・土木系が大半を占め、日本の高度成長期を担った主たる産業分野が高専の学科として存在していると言えます。
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高専の教育の特徴
高専では、1年から専門教育を始め、本科5年間で、大学4年生の専門科目と同レベルの学術的基礎を育成するのが一つの狙いになっています。大学入試がないため、非常に効率的な教育ができると思われます。本科の上に、2年の専攻科(学士号が得られる)がありますので、トータル7年間で非常に実践力のある技術者が育成できるシステムです。
講義で基礎的なものを学習し、それに基づいて演習、実験、実習が非常に豊富に組まれており、これらの組み合わせでスパイラル教育が行われ、順次レベルアップしていくという教育システムになっています。
また、すべての学生に到達させることを目標とする最低限の能力水準、修得内容を明示した「モデルコアカリキュラム」を設け、教員が何を教えるかではなく、学生が何をどこまで理解できたか、教育の量から質への転換も図っています。
高専では、企業との共同教育が非常に盛んです(下図)。例えば、各高専では、企業の実際の課題を題材にしたPBLによる、担当教員と企業の技術者が指導にあたる共同教育が非常に盛んに行われています。
インターンシップは高専の一つの特徴をなすもので、年間8000人くらいの学生がインターンシップを受けています。卒業するまでに高専生の8割はインターンシップの経験があると言えます。期間は、本科では1週間から3週間というのが代表的です。専攻科では、1カ月から3カ月という長いケースが多くなります。
5年ほど前から、機構本部では、グローバル化に対応した人材育成に対応すべく、海外インターンシップを設けています。まだ参加できる学生数が少ないのですが、順次受け入れ企業数を増やして、海外に派遣できる学生数を増やしていきたいと考えております。
グローバル化への対応としては、他には下図のような取り組みが行われています。昨年度は、2500名を超える学生が海外へ派遣され、海外からは約1100名受け入れました。グローバル化の時代にふさわしい高専を新たに作ろうと、茨城高専と明石高専の2高専をモデル校とし、環境整備、体制整備を行っているところです。
高専教育の特徴をまとめますと、高専は、5年あるいは7年の一貫教育において、学部卒レベルの学術的基礎を授けると同時に、科学技術の急速な進展に対応できる基礎をしっかり植え付けていること。長期かつ豊富な実験、実習、演習、PBL、インターンシップ、独創力を発揮する各種のコンテストなどを通じ、学卒者を凌ぐ実践力を育成していることです。これらにより、学術と物づくりを巧みに結びつける優れたセンスが育ち、そこから生まれるアイデアを実践する力が学生の中に育つと考えています。そして、そうして育った学生の持っているスピリッツを、我々は「高専スピリッツ」と呼んでいます。
高専の産学官連携・地域貢献
各国立高専には、地域共同テクノセンターというものが設置され、ここを中心にして地元の中小企業等の技術者のリフレッシュ教育、あるいは学び直しプログラム、キャリアアッププログラムが組まれております。テクノセンターの中には、地元の企業を組織化した「技術振興会」ができており、それを通した共同研究・技術相談等が活発に行われています。大学と異なるのは、地元の企業が中心になったこのような組織を中心に活動が行われていることだろうと思います。
高専では、理科離れについても、積極的な対応を行っています。小中学生向けの理科教室、科学教室の出前授業は、昨年度、全国で287講座を開催しました。特筆すべきは、7つの高専で小中学校の教職員向けの理科実験・科学実験講座を、地元の教育委員会と連携して開催していることです。
一般向けの講座、企業の技術者を対象にした先端技術の紹介やリフレッシュ教育も含め、公開講座も非常に広く行われていて、昨年度、全国で914の公開講座を開催、17000人が受講しております。
高専における女子学生の割合は、国立大学の工学部に比べると高いのですが、まだまだ不十分であり、その拡大のための取り組みも行っています。中学生向けのオープンキャンパスはすべての高専で行っています。女子学生の就職先の開拓にも資するようにと、女子学生が企業の採用担当者等の前で研究発表を行い、高専の女性エンジニアの力を見ていただく「高専女子フォーラム」というものを毎年各地域で開催しています。
これからの高専はどうあるべきか
下図は、高専生の卒業生の進路の変化の様子を示した図です。一番上のブルーの折れ線グラフが卒業生の数、その下のピンクの線が就職者の数、緑色の線が進学者の数です。近年は、就職者の割合が減り、進学者の数が大幅に増えていることがわかります。
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卒業者のうち、大学(ほとんどが国立大学)へ編入する学生が約24%、高専にある専攻科にそのまま進む学生が約16%います。専攻科の修了者の進路は、約3分の1が大学院に進学をしています。高専生には、先ほど紹介した「高専スピリッツ」が高専教育により根付いており、これが新しい環境の中でさらに成長していくと考えると、高専を経由して大学・大学院に進学した学生は、普通科高校を出て工学部に入学する学生に比べて、ひと味もふた味も違う技術者として育つと我々は認識しています。
これから高専はどうあるべきか、下図にまとめました。科学技術の高度化に伴い、産業構造は非常に変化しています。従来の物づくりとは、大幅に変わっています。これからの専門性の急激な変化に対応できるような、自ら学ぶ力を持つ技術者でなければなりません。我々としては本科と専攻科をもう一度見直して、より効率化が図られた教育制度に組み替えることができたら、産業界にも還元される技術者育成の高度な教育システムになると考え、現在、関係者に協力をいただこうと思っているところです。
最後に、産業界に対して一つお願いがあります。高専生は学部卒の人と比べて遜色ない実力があると、多くの関係者が異口同音におっしゃいます。能力のある技術者であれば、それなりの待遇をしてほしいと思います。しかしながら、高専生の採用には、ややもすると、高いレベルの技術者を安く雇えるという雰囲気が感じられることが多いのです。また、高専卒というだけで昇進の上限が決められている会社も見受けられます。この辺りのことも産業界の方々にご対応いただき、高専生の持つ豊かな才能が就職したあとも伸びていくように、是非ご配慮いただければと思っています。